きぼうのかんづめ(すだ やすなり)
人々の生きる力と温かさ きぼうのかんづめ
すだ やすなり(作)/宗 誠二郎(絵) 緊急事態宣言が、首都圏以外ひとまず解除となりましたね。
こういう例え方はお叱りを受けるかもしれないのですが、「だるまさんがころんだ」的な世の中の動きに、どうにも適応できなくて。もう1年になるというのに、未だ慣れないというか、うまくペースをつかめずにいます(恥ずかしい限りです)。 そして今月は、「あれから10年」という言葉を目にしたり、耳にしたり。 東日本大震災にまつわるエピソードは、きっと数えきれないくらいに存在するのだろうと思うのですが、そのうちの一つを題材にしたのが、今回ご紹介する作品です。 実際にある缶詰工場さんが被災された時の、実際のエピソードがベースになっています。 工場が津波で流されて、ストックしてあった商品(缶詰)もすっかり泥まみれになってしまいます。 長年ご縁があった東京にあるラーメン屋さんが事情を知ったところ、「缶詰ってなあ、丈夫なんだぞ。絶対に中身は大丈夫だ!」と、被災した缶詰の中身を具にしたラーメンを販売することに。 工場のみんなは、泥の中からありったけの缶詰を掘り起こし、ラーメン屋の常連さんは、みんなで大量の缶詰をキレイに洗って…というお話です。 ところで、これは私の好みの問題なのですが、何かの悲惨さや過酷さについての教訓を、強烈なリアリティで訴えたような生々しい表現が苦手です。 ちょっと逸れますが、一時流行った「リアルなホラー絵本」の類も苦手です。白状すると、「絵本でわざわざそれをやらんでくれよ~、頼むよ~」って思ってたりします。だって…そういうのが苦手だから、絵本の世界に逃れてきたようなものなのに(苦笑)。 話を戻しますが、要は、今回の作品は真逆なのです。 絵は、ほとんどの場面において、白い余白が充分にいかされていて、輪郭線も最小限しかありません。全てのものがシンプルな色と形で描かれています。地震の瞬間や津波被害の状況さえも、リアルさをとことん排除した線と色と形で描かれています。 綴られている言葉にも同様の工夫が凝らされています。主人公の男の子が理解できる範囲の事情だけで、物語が展開していきます。 大変な経験をした彼は、ある場面ではボロボロと涙を流し、また別の場面では、わんわん声を上げて泣いてしまいます。 終始、読み手に与えられている情報が限られているにも関わらず、男の子が泣いたり笑ったりするたびに、ぐっと胸に迫るものがあって。どうしてかな?って思うわけですが。 本当は、情報が限られているからこそ、男の子の心情に集中できる。ごく自然に、でもしっかりと意識を向けることができるんですね。 実際に起こった恐ろしい災害・甚大な被害を題材にしているのだけれど、この作品でフォーカスされているのは、人々の生きる力と温かさのほうなのです。 作品のモデルになった木の屋石巻水産という企業さんは、無事再建を果たし業績も見事に回復されたのだとか(缶詰、とっても美味しいです)。 コロナ禍の今、今度は飲食店が苦境に立たされています。ここに描かれているラーメン屋さんは元気にされているかな?って、思わずにはいられません。 暖かくなってきましたし、宣言も解除されましたし。私もご近所やお知り合いの飲食店さんに、ちょこっと足を運んでみようかなって思います。 きぼうのかんづめ
すだ やすなり(作)/宗 誠二郎(絵) ビーナイス 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |