いちごばたけのちいさなおばあさん(わたりむつこ)
私の憧れる「おばあちゃん像」 いちごばたけのちいさなおばあさん
わたりむつこ(作)/ 中谷千代子(絵) 先日、お知り合いの苺農家さんから、おいしい苺を頂きました。
「珠姫」という、奈良県産のブランド苺です。粒が大きいことと爽やかな甘さが特徴の新しい品種なのだそうです。 これが私の好みにぴったんこの味で。もぐもぐ頬張りながら思い出した1冊が、今回ご紹介する作品です。 「懐かしい」とお感じの方も多いかもしれません、ロングセラーの絵本です。 まだ雪の季節のはずなのに、雨が降り続いています。 いちごばたけの地下には、ちいさなおばあさんが住んでいて、いい頃合いに、いちごを赤く染めるのが仕事です。 雨に違和感を覚えたおばあさんが地上に出てみると…いちごばたけは見渡す限り青々とした葉で覆われて、花が咲くのも時間の問題。おばあさんは慌てて準備を始めます。 身長は10センチとなさそうです。こんなちいさいおばあさんが畑の下に住んでいる、と空想するだけで愉快な気持ちになります。 が、それだけではありません。とにかく、めちゃくちゃパワフルなおばあさん。 トンネル状で、アリの巣みたいなおばあさんの住居兼作業場は、何段もあるハシゴと階段だらけ。 ひみつの染料作りのため、桶に汲んだ地下水を何往復も運んだと思ったら、次はスコップとツルハシ(!)を持って、必要な鉱石を自ら掘り出す。 スカートにエプロン、カラフルなカーディガンっていう「かわいいおばあちゃん」定番のルックスのまま、たいへんな力仕事をほいほいやってのけちゃうんです。 そうして、全部のいちごをすっかり赤く染めてしまうと、季節はずれの忙しい仕事を終えた達成感と解放感のあまり、月明りの下、小躍りしながら歌いだしちゃうおばあさん。 なのに翌朝になると、深夜のうちに季節がすっかり巻き戻って、畑が一面の雪景色となってしまうのです。 中谷千代子さんの絵が大好きなこともあって、どのページも本当に心が和みます。 地中にあるおばあさんの住居なんて、そのまま描いたら暗いし怖くてしょうがないはずですが、土を紫で描くことで、ちっちゃくて不思議なおばあさんが、いかにも住んでそうな雰囲気を醸し出しています。 そして、ラストシーンが私は好きです。色々あって、くたびれて、ようやく安心できたおばあさん。大きないちごを愛おしそうに膝にのせ、抱きかかえたままウトウト眠っちゃう場面です。 「いやー、ほんとによかった!」と、読み終わった誰もが思うはず。 さて。先の農家さんの苺畑を訪ねたことがあるのですが、ポカポカのハウス栽培で、苺の手入れや摘み取りがしやすいように、腰高の専用ラックの上で苺を育ててらっしゃいました(膝と腰にやさしい、素晴らしいシステム!)。 ハウス栽培なら、気まぐれなお天気の影響を受けなくて済むから、いちごばたけのちいさなおばあさんも安心です。 あのおばあさんなら、ラックの上までだってほいほい登っていけるはずだし(笑) 頑張り屋さんでチャーミング。いちごばたけのちいさなおばあさんは、私が憧れる「おばあちゃん像」にぴったり重なる存在です。 いちごばたけのちいさなおばあさん
わたりむつこ(作)/ 中谷千代子(絵) 福音館書店 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |