くんちゃんのだいりょこう(ドロシー マリノ )
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![]() 冬の初めに、ぽかぽか温かい気持ちにさせてくれる作品 くんちゃんのだいりょこう
ドロシー・マリノ(作)/ 石井 桃子(訳) ようやく、長袖の服がしっくりくる季節になったなあと思っていたら、急にぐっと冷え込む日が続くようにもなってきました。そろそろ冬支度も意識し始める頃かもしれません。
ということで、今回ご紹介する作品は、冬支度をきっかけにしたお話です。 そろそろ冬ごもりという頃、くまの子のくんちゃんは、渡り鳥から南へ旅立つことを聞いて、自分も行きたいと考えます。 お母さんから、くまは冬眠するのよと言われても、「ぼく、いちどだけいってみたい、いっていい?」と言い募ります。 すると、お父さんが「帰り道をよく覚えておくんだよ。あの丘の上の大きな松の木を目印にしてね」と言うと、くんちゃんは喜んで、南にあるその丘を目指してかけてゆきます。 丘の上まで来ると、お母さんにさようならのキスをしそびれたことを思い出します。丘をかけおりて、お母さんにキスをして、また丘を登る。そしたら今度は双眼鏡が必要だと気づき、また丘をかけおります。 そもそもが思いつきだから、旅の準備はできていません。あれやこれやと、何度も丘に登っては、また家に戻ってを繰り返します。 子供達にとっては、この繰り返しが滑稽で、愉快なお話となっています。 さて、私なんかはうっかりしてばかりで要領が悪いので、この間も、駅に向かう途中で度々忘れ物を思い出しては、2度も行ったり来たり。「こんな年になっても、くんちゃんと一緒だな」と思うこともしばしばです。 中の見開きは全て、ペンで描かれたようなモノクロのイラストで、所々着色された部分は全て、色鉛筆のようなタッチを残した、優しいブルーで印刷されています。 どれも同じ色味のブルーではないかなと思うのですが、ある場面では爽やかなスカイブルー、また別な場面ではドットやチェック柄の鮮やかなブルー、寝室の暗がりなんかは、ブルーグレイのようにも見えてしまうから不思議です。 結末を知った上でタイトルをみると、内容とのあまりのギャップに、反射的にクスッとくるわけですが、見たことのない景色に憧れ、丘の上で何度も立ち止まって考えを巡らした経験は、幼いくんちゃんにとって「だいりょこう」と呼ぶに相応しい、意義のある経験だったかもしれません。 個人的には、この絵本を読むと、子供の頃、夜、もう少し起きてたくて、はぐらかすように「あとこれだけやってからでいい?」と両親に言い募ったりした記憶も、愛おしく思い出されます。そうやって3回も繰り返したら、さすがに叱られましたっけ(笑) 冬の初めに、ぽかぽか温かい気持ちにさせてくれる作品です。 くんちゃんのだいりょこう
ドロシー・マリノ (作) 石井 桃子 (訳) 岩波書店 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |