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しずかな、クリスマスのほん(デボラ アンダーウッド)

静かな画面に描かれる、豊かな心の営み

しずかな、クリスマスのほん
デボラ アンダーウッド(作)‎
今年もクリスマスシーズンの到来ですね。

今回ご紹介する作品のタイトルは、街やテーマパークの賑わいを思うと、いまいちピンとこないと感じるかもしれませんが、どうぞご安心を。けっして地味な内容ではありません。

この作品は、シリーズで発行されているうちの1冊で、ほかに「しんとしずかな、ほん」「にぎやかなほん!」というタイトルがあります。

3冊とも、愛らしい動物のイラストがまず目を引きます。訳は江國香織さん。
"クリスマスは しずかな きせつ
ふだんとはちがう あれこれの しずかさ"
という書き出しで始まる、物語ではなくて「静かな場面」をいくつもコラージュしたような作品です。では、どんな「静かな場面」かというと…。
"おくりものをさがすのは こっそり"
暗がりでウサギの兄弟がタンスを物色しています。音を立てないよう、けっして両親に見つかってはいけない、ハラハラする静かな場面です。

私も子供の頃、同じように妹とプレゼントを家中探した記憶があります(笑)。
"だれかのパパが つくった いしょうの しーん"
もみの木の着ぐるみを着た、クマの子が描かれています。これは、おゆうぎ会の珍妙な配役と衣装に、何とも言えない気の毒さを感じずにはおれない「静かな場面」です。

私も幼稚園の時、「おおきなかぶ」の「かぶ」役に抜擢?されたことがあります(同じ憂き目にあった犠牲者が他に4、5人いたはず)。

というような、なかなかユーモアに溢れた場面がいくつも登場する作品なのです。

もちろん、心の中も静かであろう、まじめな場面も登場します。それらと、おどけた空気をまとった場面とが、緩急テンポよく登場して、クスッとくるのが楽しい。

どの場面も確かに静か。でもそこにある心の営みは実に豊かで、どれも生き生きとしています。

そのためか、次々登場する一つ一つの場面を目にするうちに、絵本を読んでいたはずが、いつの間にか、子供の頃の温かい記憶の断片へといざなわれていて…。

そうやって脱線しながら、読み終わる頃には、「ああ、今年もどうにか無事に年末を迎えることができてよかったなあ~」と、しみじみ幸せな気持ちになる方もおられるかもしれません。

この一年を振り返り、新しい一年に思いを馳せつつ、皆様どうぞ素敵な年末年始をお過ごし頂けたらと思います。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。
しずかな、クリスマスのほん
デボラ アンダーウッド(作)‎
レナータ リウスカ(絵)
江國香織(訳)
光村教育図書
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恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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