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いのちの木(ブリッタ・テッケントラップ)

悲しみと寂しさでいっぱいになっている心に優しく寄り添う本

いのちの木
ブリッタ・テッケントラップ
「手作りの絵本を扱う絵本屋だなんて、どんな“おかめさん”が始めはるのかと思ったら、こんな笑顔が素敵な女の子やったなんて」

これは、私がお店を立ち上げる準備をしていた当時、友人が紹介してくれた、ある作家さんが私にかけて下さった言葉です。

その作家さんは、ぐんと大人のベテラン作家さんで、私はまだ20代でした。初めましてのご挨拶の場で、私が緊張しているのを察知してでしょうか、それこそ穏やかな眼差しの素敵な笑顔で、明るくそう言って、場を和ませて下さったのでした。

以来、奥様も交えて沢山の楽しい時間を共有させて頂きました。どれほどお世話になったかわかりません。

その作家さんがお亡くなりになって、ちょうど1年がたちました。

今回ご紹介する絵本は、私にとって、その作家さんを象徴するような作品です。

少し、季節外れなご紹介となってしまうのをお許し下さいね(この作品は、おおむね冬の景色で構成されています)。

森の仲間に慕われた、年老いたキツネの命が尽きてしまいます。悲しみのあまり、キツネのまわりで言葉を失っている仲間たち。

けれど、一番付き合いの長かったフクロウが、ポツリとキツネとの思い出を語り始めます。それをきっかけに、仲間たちそれぞれの胸にも、キツネとの楽しい思い出が次々浮かんできて、森の仲間は夜通し語り合います。

すると、キツネが横たわっていたところに小さな芽が現れて、話すほどに枝が伸び、葉が茂り、幹が太くなって、それはキツネ色の美しい木へと成長していきました。

イラストはデジタル作品のようですが、ハンドクラフトのような質感をうまく取り入れて、センスのよさに加え、しっかり温かみも伴ったものに仕上がっています。

やがてその木は大きく成長し、森の仲間の生きる支えとなります。

「いてくれたら、あったかい。いなくなっても、あったかい。」

カバーの折り返しに添えられた一言が心に残ります。私にとって、その作家さんが持つ存在感は、まさにその一言に尽きるからです。

最近は、文楽でお福人形(おかめ顔で愛嬌たっぷりの文楽人形です)を目にするたびに、冒頭の作家さんとのやりとりが思い出されて、懐かしい気持ちになります。

同様のお別れは、生きていれば、どこかのタイミングで、きっと誰しもが経験することではないでしょうか。

そんな経験をしたときは、ぜひこの作品を読んでみて下さい。悲しみと寂しさでいっぱいになっている心に、優しく寄り添ってくれるだろうと思います。
いのちの木
ブリッタ・テッケントラップ(作/絵)
森山 京(訳)
ポプラ社
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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