関西で働く女性のライフスタイルマガジン［関西ウーマン］

いよいよ秋も深まってきました。

今回も紅葉のシーンがひと際印象的で、 見せ場となっている絵本をご紹介します。

いせひでこさんの「チェロの木」です。

森の季節の移ろいとともに、 一人の男の子の成長が描かれた作品です。

先月の絵本とそのあたりは似ていますが、 こちらの絵本はどちらかというと、 仕事に焦点をあてた作品です。

彼のおじいさんは、森で木を育てる仕事を、 彼のとうさんは、楽器を作る職人として バイオリンやチェロを作る工房で働いています。

彼の日常は、森でよく遊び、とうさんが働く工房で過ごすこと。 そんなある日、完成した楽器を届けるため、 とうさんと一緒にチェリストを訪ねる機会を得ます。

チェリストは大いに満足した様子で言います。

「まったかいがあった。森が語りかけてくるようだ」

それからしばらくして、チェリストから演奏会に招待されると、 彼はその演奏に、まばたきを忘れるほど魅了されてしまいました。

森の風景や工房の風景と演奏がリンクすることで、 音楽が時間を超えて、みなの仕事をつなげていると気づいたのです。

…というような経験をした後に、紅葉のシーンを迎えます。

森の営みがかつてないほど尊く豊かに感じられたであろう、 彼の気持ちが、めいっぱい伝わってくる見開きです。

美しく透明な赤茶の絵具を重ねてゆくことで、 色づいた葉と小鳥のシルエットが 画面のいたるところに浮かびあがります。

中央にいるのは、それらに包まれながら 大樹の幹に甘えるように体を委ねる男の子と、 彼を見守るように羽ばたく青い鳥。

読んでいるこちらまでが、 かけがえのない宝物を見つけたような気分になります。

その後、景色がしんと静かな冬に変わることで、 男の子が少し成長したように感じる中、 とうさんは、彼にあるプレゼントを準備することにしました。

それはクリスマスには間に合わなかったけれど、 翌年5月、彼の誕生日に完成します。 美しい紅茶色、秋の森の風景と同じ色の小さな宝物です。

そうやって大人になった男の子は、 物語の結末で、どのような職業についたと思いますか？

個人的には、彼の選択に腹が立つほどしびれました（笑）

さすが、いせひでこさん。
彼は、自分にとっての「かけがえのないもの」を深く理解した上で、 ごく自然に、その道を選んだに違いないのです。

チェロのコンサートにも、行きたくなってしまう1冊です。 皆さんどうぞ、芸術の秋を満喫なさってくださいね。