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きみはうみ(西加奈子)

きみはうみ
西加奈子(著)
最初からそうと決めているわけではないんですが、 今年の夏も、海の絵本をご紹介します。

海の絵本なのに、黄色い表紙のこの本は、 作り手の洞察力の深さを表しているようにも思えます。

というのも、作者は直木賞作家の西加奈子さん。 ストーリーだけでなく、絵もご本人によるものです。

海をテーマに据えて作品が問いかけてくるのは、 「うつくしいって、なんだろう」ということ。

クレパスでゴシゴシおおらかに描かれたイラスト。 そのタッチと、濃くてはっきりした色使いに、 力強い生命力を感じます。

小さな存在の大きな決断が、物語の始まり。 黒い小さな塊が、旅立とうとしています。 自分の居場所が暗闇であることに悲観してのことです。

闇の外に出た小さな黒い塊がまず目にしたのは、 白い貝殻たちでした。 けれど小さな黒い塊には、それが「しがい」に見えました。

…と、最初はネガティブな感覚に囚われているのですが、 その「しがい」から顔をのぞかせたのは、かわいいヤドカリ。

「しがいじゃないよ、ぼくたちのすみかになってくれたんだよ」と ヤドカリはいいます。

やがて明るい海の美しさを目の当たりにし、 小さな黒い塊はそこに強い憧れを抱くのですが、 その美しい世界の住人からの一言で、 元いた場所が、ただの暗闇でないと気づかされます。

深海にも、すばらしい生命が存在していると知ったのです。

この気づきは、海の絵本を手がけることになった 作者の気づきそのものでした。

何をどのように感じ、この作品に至ったのか、 また、作者が考える「うつくしいもの」とは。

本のあとがきで語られているので、 そちらもぜひご覧いただけたらと思います。

泳げる人も、カナヅチさんも、 (ちなみに私はカナヅチです) ゆらゆら海の中を漂っているような気持ちで ゆーっくりと文章を目で追って、 ゆーっくりとページをめくって読むのがおすすめですよ。

あなたにとっての「うつくしいもの」は何か、 きっと気づかせてくれる作品です。
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恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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