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Brundibar by Tony Kushner

Brundibar
by Tony Kushner
Brundibarは、強制収容所で命を奪われたチェコの作曲、Hans Krásaのオペラを元にした絵本です。

子どもたちのためのオペラで、テレジンの強制収容所で55回も上演されました。

この強制収容所は当初は特権を持つ文化人などが送られる場所であり、赤十字社を欺くためにも文化活動が行われていましたが、最終的にはほとんどの人は他の収容所に送られて処刑される運命にありました。

病気で亡くなった人も多く、生き残った子どもは15,000人中わずか132人でした。

ホロコーストによる死者数は推定600万人、700〜850万人とも言われています。

うち子供 150万人と推定されていますが、戦時中の死者数は資料によってまちまちで、本当は何人死んだのか分からないというのが恐ろしいですね。

絵本のイラストは、当時75歳のセンダックによるもの。

自身の両親はユダヤ系ポーランド人で、多くの親族をホロコーストで亡くしています。

古本屋さんで見つけ、センダックの可愛らしくカラフルなイラストに惹かれて手に入れましたが、初めて読んだときには意味が分からず、なんだかちょっと不気味な不思議なお話という印象。

解説に目を通し、背景を理解してから読み直すと、イラストやストーリーに深い意味があったことが分かり、心を打たれました。

お母さんが病気になってしまった兄妹が、お医者さんに言われてミルクを手に入れるため町に出かけます。

二人は広場で、へんな歌で大人の喝采を浴びてお金を集めているBrundibarに出くわします。

自分たちも歌を歌ってミルクを買うお金を得ようとしますが、誰も相手にしてくれない上に、Brundibarに追い払われてしまいます。

動物たちや他の大勢の子どもたちと力を合わせ、やっと歌で沢山のお金を集めることができますが、今度はBrundibarに盗まれてしまいます。

大人もBrundibarの悪事に気づき、最後は皆でやっつけて無事にミルクをお母さんの元に届けることができます。

BrandibarはHitlerを表しています。

お話のラストで皆が
the wicked never win our friends make us strong
と勝利を歌っていますが、

最後のページにBrandibarからのメッセージが、

――わるいやつらは必ず帰ってくる、一人が消えても次が現れる。――

と書かれていて不気味です。

今年はヒトラーの死後70年。

ヒトラー著『マインカンプ(我が闘争)』の著作権が切れたことにより、年初からドイツでの発売禁止が解除され、非常な売れ行きになっています。

ホロコーストの発端ともなったこの本の再発売については、ドイツ国内でも賛否両論があり物議をかもしています。

オーストリアやオランダなどではまだ発売禁止であるというのも驚きでした。

日本語版タイトルは、『ブルンディバール』。

大人にも子どもにも読んでいただきたい絵本です。
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
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