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まっててね(シャーロット・ゾロトウ)

まっててね
シャーロット ゾロトウ (著)
いよいよ夏真っ盛りですね。

もうすぐお盆休みということで、親元を離れて暮らしてらっしゃる方の中には、里帰りを予定している方もおられるかもしれませんね。

今月ご紹介する絵本は、「まっててね」という作品です。

シャーロット・ゾロトウ作、エリック・ブレグヴァド絵、翻訳は、みらいななさんです。

これは、母と暮らす女の子の元に、結婚した姉が里帰りしてくるお話。女の子は6~7才くらいかな?かなり年の離れた姉さんのようです。

彼女にとって、しばらく離れて暮らしていた姉さん。久しぶりの再会が嬉しいけれど、一緒に暮らしていた頃とは少し違う雰囲気に気づきます。

遊びにやってきた姉さんは、母からコーヒーを出されたりして、まるでお客様のよう。

家事のお手伝いもそつなくこなします。身の回りのことも全部きれいに、きっちりこなしました。

彼女いわく姉さんは、夢みたいに素敵な女性になっていたのです。

誰かに憧れるということは、自分自身を省みる行為も伴います。

対象が姉という身近な存在だからこそ、素直な気持ちで、自分もそうなりたいと彼女は願い、きっとなれるはず、と信じることができたのかもしれません。

未来に思いを巡らせた彼女は、やがて母さんに尋ねます。いまに姉さんのようになって、私も遊びにきてもいい?と。

そして、そのために、今自分がうまくできない身の回りのことを全部挙げて、「できるようになるから」と、ついやってしまういたずらも全部挙げて、「しないようになるから」と、軽やかだけれど、どこか誓いを立てるようにして、ひとつひとつ、言葉にしていきます。

一通り言い終えたら、最後に、

「だから まっててね。
きっと いろんなことができるひとになって、
かあさんに あいにくるわ」

彼女はこんな言葉でしめくくりました。

タイトルになっている「まっててね」は、ここからきたものだったんですね。

でも実は。奥付によると、この作品の原題は「MAY I VISIT?」なんです。

英文のニュアンスはよくわからないんですけれど、きっと、彼女の最初の問いかけの、「遊びにきてもいい?」からきてそうなので…。

日本語版のタイトル「まっててね」は、かなり素敵。

自立した女性になって、姉のように母を訪ねたい。だから、成長するのを待っててほしい。そして私が訪ねてくることも。そういう解釈につながります。

日本語が母国語の私たちにとっては、「遊びにきてもいい?」より、断然イメージが膨らむと思いませんか?

翻訳した方のセンスがキラリと光るタイトルだなあ~と思います。

ストーリーの終盤、彼女の言葉を受けて、今度は母さんが答えます。

ぜひ実際に読んで、直接味わってもらいたいので引用しませんが、そこには、我が子に対する、成長への期待と愛情が込められた、とっておきの言葉が綴られています。

そのやりとりは、まるで往復書簡のよう。清らかでいて、穏やかな空気をまとっているのです。

私は長女で、妹と弟がいますが、憧れの対象にはほど遠かったなあ~などと、個人的には若干耳が痛い思いもよぎりつつ、反面、末っ子はいいなあ~などとも思うわけですが(そんなことを思う姉は、憧れてもらえなくて当然!)

母と子のあるべき姿、理想のかたちが淡々と描かれた、心温まる作品です。
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恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
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定休日:月曜・火曜+不定休
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