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ぼうしのうえにまたぼうし(ローラ・ゲリンジャー)

ぼうしのうえにまたぼうし
ローラ・ゲリンジャー(著)
アーノルド・ローベル (イラスト)
6月といえば、梅雨の季節。今回は、この時期に読んでみては?と思う作品です。

といっても、雨が主役というわけではなく…。

帽子が好きで仕方がない、冴えないおっさんの話です。

この連載タイトルを引っさげて、おっさんが主役のお話を紹介するのもどうかと思いますが、ここに登場する女性が、ちょっと素敵な女性なんです。

タイトルは「ぼうしのうえにまたぼうし」。作者は、ローラ・ゲリンジャーという人。挿絵は、がまくんとかえるくんシリーズでお馴染みの、アーノルド・ローベルです。

冴えないおっさんである彼は、最近、長年同居していた両親をなくし、一人ぼっちとなって毎日孤独を感じていたのでした。

それはそれは、梅雨時期の空模様のごとく、ぱっとしない日々でした。

しかも彼は悲しい時、帽子をいくつもかぶって気分を紛らわせるというなかなかの変わり者でした。

ある日、とことん悲しくなった彼は、帽子を3つ頭に載せて散歩に出ることにします。

町で一番大きな帽子屋に行ってみると…案の定、悪さをする不審者と思われて売り場にいたスタッフに邪険にされてしまいます。(言わんこっちゃない)

ところが!そこへ運命の彼女がひょっこり現れて、その場を笑顔でおさめてくれるのです。

そのおさめ方が素晴らしい。

彼の見た目の奇妙さなんか、ちっとも意に介さず、笑顔で優しくゆっくりと、一つずつ誤解を解いていき、彼はただ帽子が大好きなだけで、お店に迷惑をかけたわけでないことを示していきます。

一つずつ誤解が解けるのと同時に、彼の強ばった気持ちも、どんどん解けていきました。

彼はすっかり彼女に魅せられ、デートに誘いました。外は土砂降りの雨だったけれど、そんなのお構いなしの幸せな2人…。

さて。彼女は、見るからに奇妙な彼を、悪意ある不審者ではないはずだと、どうして一瞬で見抜くことができたのでしょうか。

実は…彼女も少し、変わっていました。

スタイルはまるまるとしていて、りんごぶくろみたいな服(だぼっとして地味だということ?)を着て、かっこわるいエプロンをかけ、変な音がする靴(?)を履いていたとか。

ただし。実に魅力的な帽子をかぶり、優しくて包容力があって、人懐っこい笑顔の持ち主なのでした。

つまり、彼女も帽子が大好きで、ほかについては相当無頓着だったわけですが、かえってそのことが、彼女の優しさと包容力を養っていました。

この一見ぱっとしない奇妙な2人を、ともに、心が清らかな愛らしい人物として印象づけているのは、やはり、アーノルド・ローベルの持ち味によるところだなあと思います。

また、共通点のある奇妙な2人の物語にすることで、お互い自然体であったにも関わらず、惹かれ合うことの素晴らしさがほんわかした空気をまといつつも、がっつり伝わってきます。

作中、2人にとって一番盛り上がるシーンが、斜めに大雨が降っているような、土砂降りのシーンなわけですが、恋愛ドラマのような情熱的なふるまいは、もちろんありません。ただ手をつなぎ、足取り軽く、ハミングしながら歩くのです。

いい年をした、あどけない2人。

それを違和感なく「微笑ましい」と思わせる。これこそ、絵本が得意とするマジックの一つかも。

彼はもう、帽子をかぶらなくても平気だったし、お気に入りの帽子が大雨に晒されていることがどうでもいいくらい、互いに、互いの存在に夢中になっていました。この雨のシーンだからこそ、さらりと垣間見えてきます。

ジメジメと鬱陶しい気分になりがちな、梅雨の時期。どこまでもマイペースでおおらかな2人の物語にふれてほっこりした気分になってみては、いかがでしょう?
 
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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