じんかん(今村翔吾)
人は何のために生まれてくるのか
じんかん
今村 翔吾(著)
今村 翔吾(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。
第5水曜日には、直木賞作家で箕面本屋大使でいらっしゃる今村翔吾さんの『今村翔吾の翔語録』をお送りしています。
今村さんご自身がご自身の著書から、珠玉の言葉をチョイスしてくださり、私からもいくつか質問させていただくコーナーです。
2024年01月31日放送放送の『今村翔吾の翔語録』では、『じんかん』から言葉をピックアップということで、私も拝読いたしました。
初めてタイトルを見た時『じんかん』とはなんだろうかと思いました。
漢字を当てると「人間」なのですが、個々の人間というより、もっと大きな意味で、人と人との間に起こること全てを指す言葉として使われていました。
主人公は戦国武将 松永久秀。私は松永弾正という呼び方で認識していました。
ですので、ここでは全て松永弾正と描かせていただきますね。
とはいえ認識していたのは名前だけで、どこのどんな人なのか、あまりわかっていませんでした。
ただ、知っていたのは「悪人」だということ。
織田信長が、松永弾正を徳川家康に紹介するとき、「この男は常人では一つとして為せないことを三つもした大悪人である」といった意味のことを語ったと言われています。
比叡山を焼き討ちにした織田信長に悪人呼ばわりされるとは、一体何をしでかしたかというと、主家殺し、将軍殺し、そして奈良の大仏殿の焼き討ちです。
私はそんな松永弾正が主人公ということは、これでもかと悪の華を咲かせるピカレスクロマンかと思っていました。
ところが、今村翔吾さんは松永弾正の三悪を綺麗にひっくり返してみせ、全く別の顔をした松永弾正を描いてくれたのでした。
まず冒頭で、子どもたちが登場します。
彼らは戦乱の中、親を亡くし、飢えています。
なんとか生き延びるために集団で追い剥ぎをしているのです。
松永弾正と弟も、途中からその集団に入るのですが、犯罪をしなくては生き延びていけないこの子たちが不憫で不憫で、すぐに感情移入してしまいました。
そして当たり前のことですが、松永弾正にも子ども時代があったのだなぁと思いました。
いきなり大悪人と呼ばれる男が出現するわけではなく、幼い頃があったのです。
子どもの頃に感じたこと、怒りや悲しみだけではない、小さな喜び、仲間との絆が彼の人格を形成していく様子がとても納得のいくものでした。
また『じんかん』では、随所に散りばめられたエピソードが物語に深みをもたらしていると思いました。
例えば、松永弾正の風貌、名前への思い入れ、茶の湯への傾倒などがそれです。
松永弾正の人間性を理解するに従って、どんどん彼を好きになっていくのでした。
このように、物語世界に引き込まれ没入していく一方、物語世界から発せられる問いに考えさせられもしました。
その問いとは、
第5水曜日には、直木賞作家で箕面本屋大使でいらっしゃる今村翔吾さんの『今村翔吾の翔語録』をお送りしています。
今村さんご自身がご自身の著書から、珠玉の言葉をチョイスしてくださり、私からもいくつか質問させていただくコーナーです。
2024年01月31日放送放送の『今村翔吾の翔語録』では、『じんかん』から言葉をピックアップということで、私も拝読いたしました。
初めてタイトルを見た時『じんかん』とはなんだろうかと思いました。
漢字を当てると「人間」なのですが、個々の人間というより、もっと大きな意味で、人と人との間に起こること全てを指す言葉として使われていました。
主人公は戦国武将 松永久秀。私は松永弾正という呼び方で認識していました。
ですので、ここでは全て松永弾正と描かせていただきますね。
とはいえ認識していたのは名前だけで、どこのどんな人なのか、あまりわかっていませんでした。
ただ、知っていたのは「悪人」だということ。
織田信長が、松永弾正を徳川家康に紹介するとき、「この男は常人では一つとして為せないことを三つもした大悪人である」といった意味のことを語ったと言われています。
比叡山を焼き討ちにした織田信長に悪人呼ばわりされるとは、一体何をしでかしたかというと、主家殺し、将軍殺し、そして奈良の大仏殿の焼き討ちです。
私はそんな松永弾正が主人公ということは、これでもかと悪の華を咲かせるピカレスクロマンかと思っていました。
ところが、今村翔吾さんは松永弾正の三悪を綺麗にひっくり返してみせ、全く別の顔をした松永弾正を描いてくれたのでした。
まず冒頭で、子どもたちが登場します。
彼らは戦乱の中、親を亡くし、飢えています。
なんとか生き延びるために集団で追い剥ぎをしているのです。
松永弾正と弟も、途中からその集団に入るのですが、犯罪をしなくては生き延びていけないこの子たちが不憫で不憫で、すぐに感情移入してしまいました。
そして当たり前のことですが、松永弾正にも子ども時代があったのだなぁと思いました。
いきなり大悪人と呼ばれる男が出現するわけではなく、幼い頃があったのです。
子どもの頃に感じたこと、怒りや悲しみだけではない、小さな喜び、仲間との絆が彼の人格を形成していく様子がとても納得のいくものでした。
また『じんかん』では、随所に散りばめられたエピソードが物語に深みをもたらしていると思いました。
例えば、松永弾正の風貌、名前への思い入れ、茶の湯への傾倒などがそれです。
松永弾正の人間性を理解するに従って、どんどん彼を好きになっていくのでした。
このように、物語世界に引き込まれ没入していく一方、物語世界から発せられる問いに考えさせられもしました。
その問いとは、
──人は何のために生まれてくるのか。
(今村翔吾さん『じんかん』 P94より引用)
(今村翔吾さん『じんかん』 P94より引用)
「俺たちはなんで生まれてきたのだろう」
(今村翔吾さん『じんかん』 P380より引用)
(今村翔吾さん『じんかん』 P380より引用)
この問いは、この2箇所だけではなく、何度も何度も繰り返されます。
本当に、私たちはなぜ生まれてきたのか、何のために?
登場人物だけではなく、私もずっとそれを考えながら読むことになりました。
物語に入り込んだり、ページから飛び出した問題に考え込まされたり、普段の読書体験とはひと味違う感覚を味わうことができました。
ところでこの小説は、日本一有名といっても良い戦国武将が小姓に向かって自分が知る松永弾正の姿を語る形式で書かれています。
思い出語りと小説の中の現実世界、平行して描かれる二つの世界の収斂もお見事。
私はこれまで読んだ今村翔吾さん作品の中で『じんかん』が一番好きです。
大河ドラマにしてほしいワ。
火花が散るような戦闘シーンなど、華ある見せ場がいっぱいだと思いますよ、と、NHKの方にアピールしておこう。
本当に、私たちはなぜ生まれてきたのか、何のために?
登場人物だけではなく、私もずっとそれを考えながら読むことになりました。
物語に入り込んだり、ページから飛び出した問題に考え込まされたり、普段の読書体験とはひと味違う感覚を味わうことができました。
ところでこの小説は、日本一有名といっても良い戦国武将が小姓に向かって自分が知る松永弾正の姿を語る形式で書かれています。
思い出語りと小説の中の現実世界、平行して描かれる二つの世界の収斂もお見事。
私はこれまで読んだ今村翔吾さん作品の中で『じんかん』が一番好きです。
大河ドラマにしてほしいワ。
火花が散るような戦闘シーンなど、華ある見せ場がいっぱいだと思いますよ、と、NHKの方にアピールしておこう。
【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
この記事とはちょっと違うことをお話ししています。
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じんかん
今村 翔吾(著)
講談社
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?時は天正五年(一五七七年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かした時に直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。大河ドラマのような重厚さと、胸アツな絆に合戦シーン。ここがエンターテインメントの最前線! 出典:楽天
今村 翔吾(著)
講談社
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?時は天正五年(一五七七年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かした時に直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。大河ドラマのような重厚さと、胸アツな絆に合戦シーン。ここがエンターテインメントの最前線! 出典:楽天
池田 千波留
パーソナリティ・ライター
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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