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終活中毒(秋吉理香子)

「終活」と言ってもいろいろ

終活中毒
秋吉理香子(著)
若い頃の私だったら「シュウカツ」と聞けば「就活」の2文字を連想したでしょうが、今は完全に「終活」を想像します。

そんな私にはとても刺さるタイトル、秋吉理香子さんの『終活中毒』を拝読しました。

この小説には4つの短編が収められています。
●SDGsな終活
●最後の終活
●小説家の終活
●お笑いの死神
(秋吉理香子さん『終活中毒』 Contentsより引用)
では第一話のさわりをご紹介します。
終活をおこなっているのは、45歳の村井真美子。

親から相続した資産を運用するだけで裕福な暮らしができる真美子は花や動物にも「さん」をつける、ちょっとメルヘンな性格。化粧っ気もほとんどない、自然派女子と言ったところだ。

そんな真美子が、手術ができないほどの病に冒され、余命宣告されてしまった。

真美子は残された日々を、田舎で暮らすことにした。お金ならあるのだ。三百坪もの広大な庭つきの一軒家を購入。広い庭には時々ハクビシンが顔を出したりする。真美子はそこに季節の花だけでなく、オレンジやいちじく、枇杷などの木も植えて、それで手作りジャムを作ったりもする。

それは自然を愛する真美子らしい「終活」、そして真美子の傍にはそれを優しく見守る夫がいた……。
(秋吉理香子さん『終活中毒』 「SDGsな終活」の出だしを私なりに紹介しました)
はっきり言って、私はこの真美子さんが苦手です。

昭和の言葉で言えば「ぶりっ子」。長い時間この人と喋っていたら背中がこそばゆくなりそう。

あー、好きになれないなぁー。

そう思いつつ、読んでいたのですが、結末を読んで「ん?友達になれないと思ったけれど、意外なところがある人だな。面白い。これなら、友達になれるかも」と考えが変わりました。

まぁ読んでみてください。

そのほかの「終活」についても軽く紹介しておきます。
●最後の終活
まだ60歳だった妻を交通事故で亡くしてしまった夫。そろそろ3回忌だという時に、折り合いが悪く実家に寄り付かなかった息子が帰ってきた。息子は妻とは仲が良かったのだ。「もうすぐ母さんの3回忌だから」と戻ってきた息子は、散らかり放題の家を片付け、テキパキと3回忌の準備を進めてくれる。なぜこの息子とうまくやれなかったのだろう。久しぶりの息子との時間はとても楽しく、嬉しいものだった…。
●小説家の終活
かつては売れっ子だった作家 神崎美奈子。ここ25年は出版社からの依頼はなく、原稿を1枚も書いていない。

自分を追い越していった後輩作家 花菱あやめは、直木賞を受賞した上、死ぬまで現役の作家でいられた。このほど死去したが、追悼特集が組まれるほどだ。

あやめは病気がわかってすぐに写真館に遺影を撮りにいったり、遺言書を残すなどの終活を始めた。

そんなあやめの遺志により、美奈子は形見分けに参加することとなった。なんでも自由に持っていって良いと言われて、美奈子が選んだのは古いワープロだった。別に深い意味もなく、ただ懐かしかったのだ。ところが、帰宅してワープロに触れるうち、美奈子は驚く。差し込まれていたフロッピーディスクに あやめの原稿が収められていたのだ。しかもそれはしっかり作り上げられた見事な小説で、未発表のものだった……
●お笑いの死神
売れないお笑い芸人「六ちゃん」。お笑いの仕事だけでは全く食べていけない。元お笑い芸人の妻はとても理解がある。お互いにいくつものアルバイトを掛け持ちし「いつかはレギュラー番組を持つぞ」「冠番組も!」と、狭いアパートで夢を語り合っていた。二人の間には女の子も生まれた。妻とこの子のためにも早く結果を出したい。六ちゃんはますます頑張ろうと思ったのだが、そんな矢先に癌で余命宣告を受けてしまう。

ずっとギリギリの生活をしていたから貯金などないし、保険にも入っていない。妻と子に何も残してあげられない。

考えた末に六ちゃんはピン芸人の1番を決める「P-1」グランプリに出場し、優勝賞金を獲得することを決意した。まとまったお金を残すにはもうそれしかない。

自身の余命に関して、周囲には一切知らさずにグランプリに向けて頑張る六ちゃんの前に、ある日「死神」が現れた……
「終活」と言っても、いろいろあるものだなぁと思いました。

どれも面白かったけれど、私は最後の「お笑いの死神」が一番好きです。

それにしても、「終活」なる言葉が普通に使われ出したのはいつごろからでしょうか。

少なくとも昭和の時代にはなかった言葉だと思います。

生きているうちに「死について」考えたり語ったりすることを「縁起でもない!!」とたしなめられた記憶がありますから。だけど、自分がいかに最後を迎えるか、どんな最後を迎えたいかを一生懸命考えることは、今をより良く生きることにつながる気がします。

多くの人がそれに気がついて「終活」という言葉が当たり前のように使われるようになったからこそ、こんな小説が生まれてきたのかもしれません。

早いか遅いかの差こそあれ、老若男女関係なく誰にでも平等に訪れる「死」と、それに向かっていかに生きるか……なんて小難しいことは全く考えることなく、非常に面白く読める小説でした。
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終活中毒
秋吉理香子(著)
実業之日本社
ゾッとする終活、理想的な終活、人生を賭けた終活…4人の“終活”に待っていたサプライズとは?40代女性ー余命をSDGs活動につぎ込む資産家の妻に望むのは…(「SDGsな終活」)。60代男性ー妻の三回忌に合わせ息子と家のリフォームと片づけを…(「最後の終活」)。70代女性ー急死した人気作家の形見分けに心を乱された理由は?(「小説家の終活」)。40代男性ー売れない芸人の終活はお笑いグランプリの挑戦で…(「お笑いの死神」)。あなたも他人事ではない驚愕×号泣ミステリー! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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