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せん(スージー・リー)

心地よいと思うままに

せん
スージー・リー(作)
2年ぶりに東京へ行ってきました。お世話になっているのに「はじめまして」のご挨拶がまだできていかなった方や、ご無沙汰してしまっている方々、そして友人にも会うためです。

今回ご紹介する絵本は、およそ4年ぶりに会った東京在住の友人に、姪っ子ちゃん・甥っ子ちゃんと楽しんでもらえたらというのでプレゼントした作品です。彼女とは、たまたま同じ時期からお互い着物にハマったために、会って浅草を着物で散策しよう!という話になっていたのでした。

さて。かれこれ6年以上ここで連載を担当していますが、これまで文字のない作品はご紹介したことがなかったかも。この作品は、絵だけでお話が展開していきます。

本のタイトルや作者名は、絵の一部のようになっていますが、タイトルはどうして「せん」なのかしら?不思議ですよね。

表紙の左下、ほんの少し鉛筆が描かれているのが画像からご覧いただけますでしょうか。これらはあたかも劇中劇のような、楽しい仕掛けがこの作品に伴っていることを表したタイトルでもあります。

本を開くと、扉の見開きに「ちいさな画家たちへ」の一言が添えられています。その後テキストはなく、ページをめくるたび、赤いニット帽と手袋を身に着けた女の子が、スイスイと氷の上を気持ちよさそうに滑っている見開きが続きます。

女の子が滑った後には、グルグル、クネクネ、さまざまな軌跡が氷上に残っていく様子が描かれているのみ。

転んじゃったら…仕切り直し。そこからページをめくるごとに、どんどん賑やかになって、キャッキャと楽しい声が聞こえてきそうなほど。テキストがなくても楽しい様子はしっかり伝わってくる、というか、むしろ「楽しそう!」が、頭を介さず、心へダイレクトに響くような印象です。

プロスケーターでもない限り、自分がスケート靴でどんな線を引いたか?気にしながら滑る人はほとんどいないはず。

それよりも、土の上を走る時よりもずっと早いスピードで、ピリリと冷たい空気をきりながら、つるっつるの大きな氷の上を滑ることそのものを楽しもうとするのが、スケートです。

この作品を“読む”と、絵を描くことにも、同じことが言えるような気がしてきます。どんな線を引くかなんて気にせずに、今の気分で色を選んで、とにかく筆を走らせてみる。まずはそれ自体を楽しめばいいのよねって。すっかり忘れちゃってるけど、だから子供の頃はみんな、お絵かきの時間が楽しかったんでしょうね。

「芸術の秋」なんて大げさな言葉は脇に置いて、心地よいと思うままに筆を走らせる感じの、落書きみたいなお絵かきを楽しんでみるのはどうでしょう?思いのほか楽しめたなら、言うことなしってことで!(ドヤ顔)
せん
スージー・リー(作)
岩波書店
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/



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