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魔女の宅急便(角野栄子)

大人にも色々な気づきをくれるファンタジー

魔女の宅急便
角野栄子(著)
こんな有名な作品を今まで読んでいなかったのですよ、私は。角野栄子さんの『魔女の宅急便』です。

そもそも私が『魔女の宅急便』を知ったのはスタジオジブリのアニメーション映画で。

黒いお洋服で箒にまたがって飛ぶかわいい魔女と、黒い猫の取り合わせが良い。ユーミンの主題歌も私にとっては懐かしくほのぼのします。

ただ、私はこの映画も全部は見ていないのです。知っているようで知らない『魔女の宅急便』。原作を読んでみることにしました。
人間のお父さんと魔女のお母さんから生まれた13歳の女の子キキ。人間と魔女の間に生まれた女の子は、基本的に魔女として行きていくのが普通だ。とはいえ選択の自由はあり、10歳になった頃、人間として生きるか魔女として生きるかを本人が選ぶ。

キキは魔女として生きていくことに決めているものの、13歳になるまで実家に居続けている。本当は魔女として生きると決めたら、生家を出て別の街に行き、一人で生きていかなければならないのに。

ある日、キキはようやく独り立ちする決意をする。そして相棒である黒猫のジジと、 箒に乗って飛び立っていった……。
(角野栄子さん『魔女の宅急便』の出だしを私なりにまとめました)
まずは、人間と魔女が共存し、結婚もありという前提なのですね。魔女、といってもこの物語の魔女は恐ろしいツノを生やしていたり、緑色をしていたりはしません。(『マレフィセント』、『ウィキッド』)

外見は人間と同じ。違うのは、いつも黒い服を着ていることと、初心者のうちは黒猫の相棒がいること、ほうきで飛べることくらい。

昔の魔女はもっと特殊なことができたらしいけれど、その能力は母から娘に無条件で受け継がれるものではないらしい。

キキのお母さんは「くしゃみ薬」を作ることができるけれど、それ以外の魔法は使えない。

その娘であるキキは、いくら教えてもらっても薬を作るのは苦手。唯一得意なのは箒で飛ぶこと、なのです。

さて、魔女として生きることを決めたキキは、両親にさよならをして、よその街を目指します。親類や知り合いがいるわけではないし、紹介状を持っているわけでもありません。

自分で住むところを選び、その街で自分のできることをして、人間に対価を支払ってもらって生きていくのです。

しかしキキは、人間の役に立つ魔法を使えません。ハリー・ポッターのように、学校に行って学ぶ、なんてこともできないようで、魔女も辛いですね。

だけど、とにかく魔女として生きることに決めたのだから、と あてもないまま、家を出たキキ。ここに住もうと思える街を見つけたものの、そこでカルチャーショックを受けます。

街で人に声をかけてみると、自分が歓迎されていないことに気がつくのです。

どうやら「魔女」をよく知らない人が多いらしい。

人間は知らないものを毛嫌いする傾向があります。自分の生まれた街では、魔女であるお母さんは嫌われたりはしていなかったのに。

前途に不安を感じるキキでしたが、偶然知り合ったパン屋のおかみさんが、お客さんの忘れものを届けてあげたがっていることを知り、「私が届けましょうか?」と申し出ます。

そう、キキは箒で飛ぶことだけは得意なのですもの。誰よりも早く、忘れ物を持ち主に返してあげられると言うわけ。

これがきっかけで「魔女の宅急便」屋さんを始めたキキが色々な人と出会い、様々なものを届けるうちに、すっかり街に馴染んでいく、というお話。

この物語は「魔女の」というタイトルがついているけれど、実はどんな人にも当てはまるお話なのですね。

実家を出るかどうかは別として、いつかは親離れをして、自分の力で生活していかねばならない という意味で。

他にも、自分が進む道は自分で決めるということや、一体自分は何が得意で、人に何をしてあげられるのか、それを見つけることが社会人になることだということなど、ファンタジーでありながら、とても現実的なお話でもあるのです。

自分の居場所は自分で作る、それが『魔女の宅急便』のテーマのように思えました。もちろん、一人の力で生きていけるわけではなく、色々な人と出会い、失敗し、学ぶことで強くなれるのだということも教えてくれます。

面白いだけではなく、大人の私にも色々な気づきをくれるファンタジー小説でした。夏休みの感想文の課題本として大いにお勧めします。
魔女の宅急便
角野栄子(著)
福音館文庫
「ひとり立ち」するためにはじめての街にやってきた十三歳の魔女キキと相棒の黒猫ジジ。彼女が懸命に考えて自立するために始めた仕事は、ほうきで空を飛んで荷物を届ける宅急便屋さんでした。ミスをしておちこんだりしながらも元気に生きるキキは、荷物を運びながら大事なことを発見していきます。小学校中級以上 出典:楽天
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池田 千波留
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パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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