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ドタバタ・クリスマス(スティーヴン・クロール)

まるで私やん、このサンタ

ドタバタ・クリスマス
スティーヴン・クロール(作) トミー・デ・パオラ(絵) 岸田衿子(訳 )
アメリカのドラマをみていると、しょっちゅう「うちは代々警官の家だが…」みたいなセリフや設定が使われています。祖父も父親も優秀だったのに息子は落ちこぼれで、といったシチュエーション。これは、サンタクロースにもあてはまるのでしょうか。

サンタが登場する作品は数多存在しますが、今回の作品では「彼にこの仕事は向いてないんじゃ…?」と、あまりの気の毒さから、うっかり転職を勧めたくなってしまうほど。

まず、ソリから家の屋根へ、まともに着地ができません。すっころんで鼻をぶつける。 この先を思いやってか?ため息をついて、首を振って、やっと元気を出して再開しようとするサンタ。

その後も本人が自覚しているとおり、すんなりとはいきません。なんなら、出発前からの間違いも露わとなって、タイトル通りのドタバタ感。

煙突を転げ落ち、部屋のクリスマスツリーをうっかり倒し、やれやれと腰掛けたソファーを破壊して…。リアル暗中模索?な状況にしょんぼりするサンタの様子を見ていると、「むしろ、まともなサンタは真っ暗闇の中、どうやってミッションを遂行しているんだ?」と、逆の疑問がよぎるほど。

さて、ここで注目していただきたいのが表紙右下のすみっこです。小人のジェラルドが、こそっと、ソリに乗り込んでいます。 この作品は、彼の様子を追いかけるのが楽しい絵本でもあります。

昨年「さあ、しゃしんをとりますよ」という作品をご紹介しました。今回と作者(文章)は違うけれど、絵は同じ絵本作家によるもの。あの作品も、助手の機転が楽しいお話でした。 今回の助っ人ジェラルドは、序盤から粛々と、また違った働きで楽しませてくれます。

「ま、しごとは ちゃんと やらなくちゃ」とサンタ。 ぜひ実際に読んで「お前が言うんかーい!」と即ツッコミを入れてやってください。

にしても、ジェラルドのような小人の存在が現実世界で叶うとしたら、どうでしょう。どんなに鈍くさくても、やらかしたり失敗しても、周囲に迷惑をかけることなく人並みのペースで生きていけそうな気がする。 全くもって羨ましすぎる…!

というアホな現実逃避に見舞われるのは、どう考えても、私が日々このサンタ並みにドタバタしてしまってるから。まるで私やん、このサンタ(泣) 好きで選んだ仕事であっても、結局何かしら、向かない作業は伴いますね。

今年は例年以上に反省の多い1年でしたが、とはいえ、とりわけ仕事の面で、コロナ禍が過去のことになりつつある実感が伴ったことは、有意義だったように感じています。

皆さんは、いかがでしたでしょうか? 今年も読んで頂きありがとうございました。どうぞ素敵なクリスマスを!
ドタバタ・クリスマス
スティーヴン・クロール(作) トミー・デ・パオラ(絵) 岸田衿子(訳 ) 発行 好学社
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恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
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