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Small in the City by Sydney Smith

町の風景がありありと浮かぶ

Small in the City
by Sydney Smith
子どものころ訪れた町を、何年か後に訪ねると、町が縮んでしまったように感じられます。視点の違いで、景色がすっかり違って見えた経験は、誰にもあるのではないでしょうか。

“Small in the City” は、カナダ人でイラストレーターの シドニー・スミス が初めて絵と文の両方を手がけた絵本です。小さな男の子が都会の町に一人で出かけていく様子を描いています。

表紙は、男の子がバスに乗っているところ。窓ガラスに町の様子が映り込んで、ビルや、車の列が見えます。一番手前には雪もちらついています。こんな様子が、パッと見て分かるように描けるなんて。シドニー・スミスのイラストは素晴らしいです。

ちょっと歪んだ線で、さらっと描いたように見えますが、町の風景がありありと浮かんできます。バスを待つ無表情な人々、歩道、水溜りに映る人々の影、鏡張りのビルに映る男の子…

男の子が歩くにつれ、景色が移り変わります。映画のように、一緒に町の中に入っていくように感じられます。

イラストは、筆ペンをベースに、水彩絵の具やクレヨンで彩色されていますが、いろいろな手法が使われていて、他にない独特な雰囲気。

降り始めた雪が、吹雪になって、どんどん積もっていき、車も建物も木々も雪に覆われていく様子は、臨場感があります。作者がトロントで過ごした思い出をもとに描いたもので、凍えるような寒さが伝わってきます。
I know what it’s like to be small in the city.
People don’t see you and loud sounds can scare you,
And knowing what to do is hard sometimes.
町のなかで小さな存在なのが、どんなことか分かってるよ。誰も君のことを見ないし、大きな音は君をおどろかせる。そして、どんな風に振る舞ったらいいか知るのは、ときどきとっても難しい。

作者が男の子に話しかけているように思える文章ですが、読み進むと、あれ?なんだかおかしいな、と思ってきます。町の中で、危険なときに隠れる場所や、休憩する場所を教えてくれるのですが、なんだか変。

おすすめの魚屋さんでは、頼んだら魚もくれるよって?

話しかけているのは、男の子の方で、相手は…
But I know you.
You will be all right.
雪がひどくなったので、心配したお母さんが迎えに来ていて、男の子は暖かい腕の中へ。最後のページでは、読者もほっとさせられます。

2021年のケイト・グリーナウェイ賞、2019年のニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞、2020年のエズラ・ジャック・キーツ賞など多数の賞を受賞した作品です。
Small in the City
by Sydney Smith
Publisher: Neal Porter Books
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
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