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Alice's Adventures in Wonderland Pop-up adaptation by Robert Sabuda

美しいしかけは宝箱のよう

Alice's Adventures in Wonderland Pop-up adaptation
by Robert Sabuda
阪急うめだ本店のクリスマスのウィンドーディスプレイ、もうご覧になりましたか?

毎年とても華やいだ気分にさせてくれますが、今年は「不思議の国のアリス」がテーマです。とてもゴージャスなので、まだの方は是非ご覧になってください。

『不思議の国のアリス』が出版されたのは、1865年。150年以上も前に書かれたのに、まったく色褪せず、大人も子どもも楽しめる本当に不思議なお話です。今年は、何の記念でもありませんが、あべのハルカス美術館では「アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界-」の展覧会が開催されているし、先日はオンラインで、英米児童文学の研究者である夏目康子さんの「ルイス・キャロルの言語世界」という講座も開催されていて、受講することができました。とても興味深く、面白かったです。

不思議の国のアリスの気分が高まっていて、紙の魔術師 Robert Sabuda のしかけ絵本は、あまりにも有名ですが、あえて取り上げてみました。

イラストは、オリジナルの John Tenniel のスタイルに倣っています。ストーリーも、省略されてはいますが、原文をなるべく残した形で、アレンジされています。

立体的に立ち上がるしかけは、とても精緻にできていて、開くたびに見惚れてしまいます。どんな角度からみても完璧。こだわりが伺えます。最初のページでは、森の木々が立ち上がり、その前で、アリスが白うさぎを見つけて追いかけようとしています。よく見ると、森の木々には、チェシャ猫や、カップを持ったマッドハッター、ハートのクィーンの顔も隠れています。

それぞれのページには、お話が書かれた、3分の1ほどの幅の数ページの絵本がついていますが、その中にも美しいしかけがあって、宝箱のようです。動物たちの姿には、けばだちのある布も使われています。

5,000円ほどする本ですが、その値段で、このクオリティを実現できるのが素晴らしく感じられました。

最後のページが特に有名です。開くと、たくさんのトランプが立体的に舞い上がってアリスに襲いかかります。いったい、どんなふうに作られているのでしょう…

破ってしまうのが怖くて、あんまりじっくり見れていなかったのですが、今回何度も眺めて満喫しました。

作者の Robert Sabuda は50代のアメリカ人。なんとなくヨーロッパのもっと年配の人だと思い込んでいました。ウェブサイトを覗くと、ダイヤルを回すことで絵を描くロボットを紙で実現していたり、野心的な作品を作り続けているようです。

ウェブサイトでは、しかけ絵本の作り方の本も、初級から上級まで多数紹介していて、しかけ絵本に対する愛が感じられました。興味があったので、さっそく初心者向けの本を購入してみました。少しは仕組みが分かるでしょうか…

『不思議の国のアリス』は、原作の著作権が切れていることもあり、さまざまな翻訳が存在し、新訳も出続けています。講義でもお話がありましたが、翻訳は時代とともに古びていくのに、原作は古びません。英語も古くなると思いますが、150年前の英語であれば、ほとんど違和感なく読むことができます。デザインも英語版がおすすめです。
Alice's Adventures in Wonderland by Lewis Carroll, Pop-up adaptation
by Robert Sabuda
Publisher: ‎ Simon & Schuster, Inc.
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
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