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The Rabbits by John Marsden and Shaun Tan

深く考えるきっかけになってほしい

The Rabbits
by John Marsden & Shaun Tan
2023年になりました。今年の干支にちなんで、”The Rabbits” の絵本を紹介します。

“The Rabbits” は、オーストラリアのヤングアダルトの作家、ジョン・マーズデンが文章を、ショーン・タンがイラストを描いています。1998年の出版。当時24才で、まだ有名でなかったショーン・タンの初期の作品です。

ウサギというと、可愛くかよわいイメージ。でも、この絵本では、不思議にデフォルメされた無表情で怖いキャラクターです。

ウサギたちは、海からやってきて、Numbat(フクロアリクイ - オーストラリア固有の有袋類)のような動物たちが暮らす土地を侵略します。フクロアリクイたちは、自然の中で暮らしていますが、ウサギたちは、テクノロジーを駆使し、巨大なビルを次々に建築し、牛や羊といった家畜を持ち込み、自然を破壊していきます。

危機に気付いたフクロアリクイたちは、戦いを挑みますが、ウサギたちの軍事力と数の多さに圧倒され、敗れます。たくさんのフクロアリクイが命を落としました。

土地を完全に支配したウサギたちは、草を狩り、木を切り倒し、もといた動物たちを追い払いました。フクロアリクイの子どもたちまで、連れ去ってしまいます。

イギリスによるオーストラリア先住民の略奪がベースの物語になっていますが、細かいところまで歴史に則したものではありません。SFタッチで漫画的に描かれ、普遍的な内容になっています。

ウサギは、先住のフクロアリクイを軍事力で制圧しますが、自然を破壊してしまい、自分たちが思い描いていたような都市を築くことはできませんでした。空は真っ暗になり、土地は枯れてしまいます。

“The Rabbits”は、オーストラリア児童図書賞を受賞したほか、アメリカやイギリスでも様々な賞を受賞し、2015年にはオペラにもなりました。多数の言語に翻訳され、日本でも『ウサギ』というタイトルで2021年に出版されました。

文章は40行に満たないもので、英語もシンプル。日本語版は活字ですが、原書は手書きです。大文字と小文字が混ざっていて、フクロアリクイの語りにリアリティがあり、英語で読むのをお勧めしたいです。

ショーン・タンは、文章だけを渡され、著者からすべてを任されて、このイラストを生み出しました。侵略された側の動物は、文章には書かれていないし、ウサギをどう描くかでも印象がまったく違ったと思います。世界中で長く読み継がれる、深みのある素晴らしい絵本になり、絵のパワーを感じました。

オーストラリアでは、学校の教材としても、この絵本が研究され、YouTubeにも個人による解説動画がアップされています。イラストが細かいところまで描きこまれているので、いろいろな研究や解釈が楽しめそうです。

世界で繰り返され得る暴力と破壊について、深く考えるきっかけになってほしい、という願いがこめられた絵本です。
The Rabbits
by John Marsden & Shaun Tan
Publisher: Simply Read Books
profile
谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
StoryPlace
HP:http://www.storyplace.jp
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