編集者の読書論(駒井稔)
読みたい本がまた増えた
編集者の読書論
面白い本の見つけ方、教えます
駒井 稔 (著)
面白い本の見つけ方、教えます
駒井 稔 (著)
通学途中の駅構内で一心不乱に本を読む少女。ショッピングモールの書店で歩行器に身をもたせ掛けて熱心に本を選ぶ老婦人。ふと見かけた光景に胸の高まりを覚え、不思議な感動に襲われた著者は、かつての自分の経験を思い出します。
著者の駒井稔さんは、30代半ば頃、男性週刊誌の編集者として激動する世界の動きを敏感に感じ取る環境にいました。そんな時こそ原点に帰ろうと、駒井さんは寸暇を惜しんで世界の古典を読みふけるようになります。ある晩、同僚たちとクラブに行ったとき、我慢できなくなった駒井さんは、ほの暗いクラブのソファでそっと本を読みはじめます。のちに駒井さんは光文社古典新訳文庫を創刊し、10年にわたって編集長を務めました。
そんなまえがきから始まる『編集者の読書論』は、長年、雑誌や文庫の編集に携わってきた著者ならではのおすすめ本を集めた一冊です。やわらかで温かみある文章は読み物としても面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。
まずは、世界の<編集者の>読書論から始まります。海外では、編集者といえば、作家と同様かそれ以上に尊敬される特別な響きをもっているようです。次代の作家を見出し、育てていく重要な役割を果たしているからです。著名なフランスの出版社を築いたガストン・ガリマールは、自伝で「フランス文学、それは私だ」と言ったそうです。ほかにも紹介される文学界の興隆に貢献してきた伝説的な編集者・出版人らと世界的作家らとの出会いや交流の逸話はとてもエキサイティングです。近現代史の一端を知ることもできます。
続いて2章は、世界中の魅力的な読書論の紹介です。毛沢東の猛烈な読書ぶりが紹介されたあと、サマセット・モームの『読書案内―世界文学』が登場します。「最も薄くて最も内容のある本」と大絶賛のこの本、皮肉とユーモアに満ち満ちていて、肩の力を抜いて読めそうです。私も高校生の頃にモームの小説に夢中になりましたが、この本はまだ読んでいません。久しぶりにモーム節に触れてみたくなりました。
世界の書店と図書館を巡る旅と題した3章も魅力に満ちています。世界各地の書店をまわった人の本、書店を舞台にしたノンフィクション、神話化された伝説の書店、世界の個性的な図書館を写真付きで紹介した本などが生き生きと紹介されていきます。図書館のイメージをはるかに超える幅広いサービスを提供するニューヨーク公共図書館を紹介した『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告』は、私もたいへん感銘を受けました。この図書館での多様な活動を追ったドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館―エクス・リブリス」(2017年制作)とともにおすすめです(映画鑑賞記録はこちらからどうぞ)。北欧の公共図書館も紹介されています。これについては私も以前に『フィンランド公共図書館』を紹介しています。
4章からは文学作品が紹介されます。名作、著名な作家の代表作と言われる長編小説を読み始めて挫折するという話は多いですね。そうした人に、著者は、その作家の短編から読んでみることをすすめます。暗くて重くて辛い作品ばかりというイメージのドストエフスキーや、超長編『戦争と平和』を書いたトルストイも、中・短編にはまた違った味わいがあるので、そちらから入って長編に挑戦してはいかがでしょうとのことですよ。
5章では、トロツキーや福沢諭吉、内村鑑三やマーク・トウェインらの自伝が紹介されます。そして、本書では紹介の文字数は少ないのですが、ジョン・スチュアート・ミルの『ミル自伝』は私も超おすすめです!『女性の解放』とあわせて、ぜひどうぞ。
最後は児童文学のすすめです。日本でも親しまれている児童文学の名作には縮約や翻案されたものも多いそうです。『ロビンソン・クルーソー』や『ガリバー旅行記』、『ピノッキオ』などを完訳で読むと驚きの発見があるそうですよ。読んでみなくちゃですね。
児童向けの本といえば、私もたいへんお世話になってきました。子どもの頃は児童文学をたくさん楽しんできましたし、最近では大人向けの本では取り上げられていないような史実や人物の評伝が児童書で出版されていることが多いのです。私も以前のブックレビューで、「児童書で知るユダヤ人を救った人々」の本を特集しています。
ところで、本書のあとがきでは、若い世代の本好きの人がどのように本と出会うのか尋ねたところ、書店に行くこととTwitter(現X)で関心の合う人をフォローすることと聞いて、新しい時代の到来を感じたと駒井さんは書かれています。私も学生たちに同じことを聞きますが、最近ではそれにYoutubeやTikTokのブックレビュー動画というのが加わるようになりました。わがブックレビューも予告動画を作ろうかな!?
著者の駒井稔さんは、30代半ば頃、男性週刊誌の編集者として激動する世界の動きを敏感に感じ取る環境にいました。そんな時こそ原点に帰ろうと、駒井さんは寸暇を惜しんで世界の古典を読みふけるようになります。ある晩、同僚たちとクラブに行ったとき、我慢できなくなった駒井さんは、ほの暗いクラブのソファでそっと本を読みはじめます。のちに駒井さんは光文社古典新訳文庫を創刊し、10年にわたって編集長を務めました。
そんなまえがきから始まる『編集者の読書論』は、長年、雑誌や文庫の編集に携わってきた著者ならではのおすすめ本を集めた一冊です。やわらかで温かみある文章は読み物としても面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。
まずは、世界の<編集者の>読書論から始まります。海外では、編集者といえば、作家と同様かそれ以上に尊敬される特別な響きをもっているようです。次代の作家を見出し、育てていく重要な役割を果たしているからです。著名なフランスの出版社を築いたガストン・ガリマールは、自伝で「フランス文学、それは私だ」と言ったそうです。ほかにも紹介される文学界の興隆に貢献してきた伝説的な編集者・出版人らと世界的作家らとの出会いや交流の逸話はとてもエキサイティングです。近現代史の一端を知ることもできます。
続いて2章は、世界中の魅力的な読書論の紹介です。毛沢東の猛烈な読書ぶりが紹介されたあと、サマセット・モームの『読書案内―世界文学』が登場します。「最も薄くて最も内容のある本」と大絶賛のこの本、皮肉とユーモアに満ち満ちていて、肩の力を抜いて読めそうです。私も高校生の頃にモームの小説に夢中になりましたが、この本はまだ読んでいません。久しぶりにモーム節に触れてみたくなりました。
世界の書店と図書館を巡る旅と題した3章も魅力に満ちています。世界各地の書店をまわった人の本、書店を舞台にしたノンフィクション、神話化された伝説の書店、世界の個性的な図書館を写真付きで紹介した本などが生き生きと紹介されていきます。図書館のイメージをはるかに超える幅広いサービスを提供するニューヨーク公共図書館を紹介した『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告』は、私もたいへん感銘を受けました。この図書館での多様な活動を追ったドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館―エクス・リブリス」(2017年制作)とともにおすすめです(映画鑑賞記録はこちらからどうぞ)。北欧の公共図書館も紹介されています。これについては私も以前に『フィンランド公共図書館』を紹介しています。
4章からは文学作品が紹介されます。名作、著名な作家の代表作と言われる長編小説を読み始めて挫折するという話は多いですね。そうした人に、著者は、その作家の短編から読んでみることをすすめます。暗くて重くて辛い作品ばかりというイメージのドストエフスキーや、超長編『戦争と平和』を書いたトルストイも、中・短編にはまた違った味わいがあるので、そちらから入って長編に挑戦してはいかがでしょうとのことですよ。
5章では、トロツキーや福沢諭吉、内村鑑三やマーク・トウェインらの自伝が紹介されます。そして、本書では紹介の文字数は少ないのですが、ジョン・スチュアート・ミルの『ミル自伝』は私も超おすすめです!『女性の解放』とあわせて、ぜひどうぞ。
最後は児童文学のすすめです。日本でも親しまれている児童文学の名作には縮約や翻案されたものも多いそうです。『ロビンソン・クルーソー』や『ガリバー旅行記』、『ピノッキオ』などを完訳で読むと驚きの発見があるそうですよ。読んでみなくちゃですね。
児童向けの本といえば、私もたいへんお世話になってきました。子どもの頃は児童文学をたくさん楽しんできましたし、最近では大人向けの本では取り上げられていないような史実や人物の評伝が児童書で出版されていることが多いのです。私も以前のブックレビューで、「児童書で知るユダヤ人を救った人々」の本を特集しています。
ところで、本書のあとがきでは、若い世代の本好きの人がどのように本と出会うのか尋ねたところ、書店に行くこととTwitter(現X)で関心の合う人をフォローすることと聞いて、新しい時代の到来を感じたと駒井さんは書かれています。私も学生たちに同じことを聞きますが、最近ではそれにYoutubeやTikTokのブックレビュー動画というのが加わるようになりました。わがブックレビューも予告動画を作ろうかな!?
編集者の読書論
面白い本の見つけ方、教えます
駒井 稔 (著)
光文社新書(2023年)
◎革命家はどんな本を読んでいたのか? ◎「短編」「自伝」「児童文学」から始める読書とは?…etc. 「光文社古典新訳文庫」創刊編集長が贈る"なぜか次々と本が読みたくなる" ブックガイド 出典:amazon
面白い本の見つけ方、教えます
駒井 稔 (著)
光文社新書(2023年)
◎革命家はどんな本を読んでいたのか? ◎「短編」「自伝」「児童文学」から始める読書とは?…etc. 「光文社古典新訳文庫」創刊編集長が贈る"なぜか次々と本が読みたくなる" ブックガイド 出典:amazon
橋本 信子
大阪経済大学経営学部准教授
大阪経済大学経営学部准教授
同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専門は政治学、ロシア東欧地域研究。2003年から初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発にも従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら